初夏 - 里山のホタル

森のある暮らしのすすめ 2013.04. 8

6月の上旬ともなると、そろそろホタル鑑賞の季節。
初夏の風物詩として親しまれてきた「ホタル狩り」は、
昔から自然の現象を暮らしの楽しみとしてきた日本人に、特に好まれてきた事象のひとつです。
しかし河川の汚染や農薬の使用により、ホタルの数が激減し、次第に失われつつあります。

日本でお馴染みの「ゲンジボタル」は、本州以南の広い地域に分布している大型のホタルで、「やや」きれいな川の中で育ちます。
ゲンジよりも小さいヘイケボタルは、小川や田んぼの水路の中で育ちます。
餌は淡水にすむカワニナやタニシなどの貝です。ゲンジボタルはカワニナしか食べません。
ホタルは水辺の苔などに卵を産み付け、
孵化した幼虫は水の中に入って巻貝を食べて成長します。
水の中で越冬し大きくなった幼虫は、雨の日に岸に這い上がり、
土の中にもぐってサナギになります。
やがて暖かくなり、5月も下旬頃になると羽化した成虫が飛びはじめます。
飛んでいるのは全てオスで、メスは地面近くの葉にとまって光を放ちます。
このホタルの光は、求愛行動を示すもので、実は発光のパターンもわかっています。
東京都多摩動物公園の元園長である矢島稔さんは、自身の著書『昆虫たちの「衣・食・住」学』の中で、「光は言葉」と題し、ホタルの発光パターンについて述べています。

「たとえばゲンジボタルの雄は雌の近くで13秒間に6回くらい連続して発光し
10秒間くらい休んでまたストロボのように発光する。
これはプロポーズのときの発光パターンでそれ以外には発光しない。
これに対して一回ピカッと発光することで雌は雄に受け入れる意思を示す。
"光は言葉"という証明は、近年、測定機器の開発でなし得た成果である。」

ホタルは湿度の高い場所を好んで飛ぶようで、梅雨時によく見られます。
でも風の強い日も苦手らしく、冷え込んだ日や雨が強く降っている日には飛ぶ数がめっきり減ります。
ジトっとした生暖かい日、人にとってはあまり快適ではない日が、ホタル狩りに最適な天候なのです。

多摩丘陵にも多くの里山があり、農薬に汚染されていないきれいな水で稲作をしていた時代には、ゲンジボタルなどが普通に飛びかう環境がありました。
現在、ゲンジボタルは東京都の保護上重要な野生生物種(1998年版)のランクBに指定されるほど、減少が危ぶまれている生きものです。
幸い、『東京森都心 多摩ニュータウン東山』を挟む2つの里山公園では、
このゲンジボタルの飛翔が確認されています。
森に囲まれた田んぼの上を飛び交う光の群れ。
それは本当に、幻想的な光景です。

都内の各所で、人工的にホタルを飼育し、鑑賞する催しが企画され、毎年盛況であると聞きます。
でもだからこそ、ホタルが生きて行くための環境そのままが残っているからこそ見られる
里山のホタル狩りは、より貴重なのかもしれません。

今年、どこかでホタルを見る機会があれば、ぜひその光りかたに注目してみましょう。
光は言葉、なのです。

photo by photolibrary

ページトップ