夏の森の人気モノたち~カブトムシとクワガタ~

森のある暮らしのすすめ 2013.04. 8

夏真っ盛りの森で、子供に大人気な生き物と言えば、、、

 

そう、カブトムシやクワガタといった甲虫です。

今回は、この森の人気者についてのお話です。


120815_001.jpg

■「昆虫の王さま」カブトムシとノコギリクワガタの戦い


 

カブトムシとクワガタの生活史

 

カブトムシとクワガタ。

どちらも夏休み中の子どもたちにとっては、なくてはならない夏の風物詩です。

 

日本の中で生息するカブトムシは、コガネムシ科に属する大型の昆虫で、日本には4種類が生息しています。

本州以南から沖縄本島までの標高1500m以下の山地から平地の広葉樹林に分布し、その中でも江戸時代から薪炭林としてクヌギやコナラ等が植えられた、いわゆる「雑木林」「里山林」に多く生息しています。

 

 

 

120815_002.jpg

■クヌギの植えられた雑木林

 

 

対するクワガタですが、日本には36種類が分布しています。

大きさは4mmのマダラクワガタから80mmにもなるミヤマクワガタまでさまざま。

カブトムシと同じように、クヌギやコナラ等の落葉樹がある場所に生息しています。

 

この2つの人気モノの違いは、成長の速度と寿命の長さです。

オオクワガタを始めとするクワガタの生活史(※)は、その多くが"二年一越型"。

クワガタのメスは、腐りかけたクヌギかコナラをかじって穴を開け、卵を産みます。

夏から秋にかけて産まれた卵は約一ヶ月後に孵化し、幼虫は自分の周りにある、朽ちた木をかじりながら越冬し、成長を続けます。幼虫が成虫になるまでには二年程かかるため、二年一越型と呼ばれています。

オオクワガタやコクワガタ、ヒラクワガタ、ミヤマクワガタ等が、これにあたります。

 

3年目の5月ごろ、ようやく蛹(さなぎ)になります。通常は蛹になってから1ヶ月後には羽化しますが、まだ外に出ません。

成虫になった後もそのまま朽木の中に留まり、4年目の初夏にようやく外へと出ていきます。(幼虫の期間が短縮され3年目に姿を表す個体もいます。)

成虫になれば、2年以上生きます。

 

反対にカブトムシは、成虫のまま、越冬することはできません。

前の年の夏に腐葉土に産みつけられた卵は、ご飯粒くらいの大きさで、1週間程度で水分を吸って大きくなり、弾むほど固くなっていきます。

 

 

120815_004.jpg

■落葉や朽木が微生物の働きによって分解され「腐葉土」となっていきます。

こういう場所を注意深く掘っていくと、カブトムシの幼虫がいます。

 

里山の雑木林には、薪や炭づくりのために適したクヌギやコナラといった落葉樹が多く植えられていました。

秋になって落ちた葉や朽木を集めて微生物による分解を待ち、腐葉土を作っていました。

カブトムシはこういった腐葉土の中に卵を産み、次の年まで幼虫のまま冬を越します。

人間の営みが、カブトムシの生息環境にも適した条件を産み出していた好例と言えます。

 

さてカブトムシの生活史を詳しく見てみると、産卵から10日ほどで卵の中から幼虫が出てきて、その後1齢幼虫~2齢幼虫~3齢幼虫と腐葉土を食べながら成長していき、3齢幼虫の状態で越冬します。

冬が明けて、4月~6月にかけて、体から出した分泌液や糞で腐葉土中に楕円形の「蛹室(ようしつ)」を作り、その中で3回目の脱皮をして蛹になります。

オスの場合は、この時に頭部に角ができます。

羽化してから2週間程度は、何も食べずに土の中ですごし、夜を待って地上に出て行きます。

カブトムシが発生する時期は夜間の外気温に関係し、夜間の気温が20度を上回る日が続くと出現すると言われています。そのため温暖な地域から寒冷地域まで、出現の時期に幅が生じるのです。

このようにして生まれたカブトムシですが、クワガタと違って、成虫は越冬することができません。

自然下のものは遅くとも9月中には、次の世代へ命を繋いで、全て死んでしまいます。

 

※1:生活史(せいかつし Life History)とは、生態学的な視点に立ち、その生きものの一生の変化の様子を、生きものの生活に即して考える場合に用いる言葉。

 

人気モノの歴史

さてカブトムシとクワガタは、森の中に暮らす昆虫ですが、現在、その姿をみかける場所はそうとも限りません。

街中の店頭で販売されている姿を見かけることも、多くなっているのではないでしょうか。

 

そもそも『虫売り』という商いは、古く(江戸時代 元禄年間ごろ)は鑑賞用のスズムシから始まり、昭和30年ごろまでは秋に鳴く虫を中心に発展してきました。

しかし農薬の使用等の影響からか、身近にいたはずの虫たちが姿を消し、その代表としてカブトムシやクワガタが『商品』として登場するようになります。

昭和40年ごろから、カブトムシやクワガタは観賞用の昆虫として、デパートやペットショップ、ホームセンター等あちこちで売り買いされるようになりました。

現在30~40才代の子育て世代が子供のころから、すでに『売り買いされる昆虫がいる状況』は始まっていたのです。

 

飼育の容易なカブトムシは何万匹と生産・販売する業者も現れましたが、生産量が増えると個体自体の販売価格は下がるため、そのブームも下火になってしまいました。

しかしクワガタは飼育の難しさから出回る量も限度があったため、価格も落ちることがありませんでした。


120815_005.jpg

■特に人気の高いオオクワガタ



120815_006.jpg

■ノコギリクワガタ


120815_007.jpg

■ミヤマクワガタ

 

 

1999年に植物防疫法が規制緩和されたことで、外国産のカブトムシの一部が輸入されるようになりました。

最近では、日本国内にいながら、図鑑の中だけでしか見たことのない大型のカブトムシやクワガタが入手できるようになっています。

しかしやはり、お金を出して買える状況が簡単になるよりも、森の中にかつていたはずの人気モノたちがいる環境を、未来の子供たちのために残していきたいものです。

 

夏休みの思い出として、虫カゴを抱えて、カブトムシやクワガタを追いかけた経験を持っているということは、子どもたちにとってかけがえのない宝物になるのではないでしょうか。

 

 

人気モノを支える森の多様性

 

120815_003.jpg

■コナラの大木。

こういった古い木の枝が朽ちたり、幹から樹液が漏れ出したりすることで、多くの生きものの餌や新しい命が生まれていく。

 

カブトムシもクワガタも成虫になった後は、コナラやクヌギなどの樹液を吸って生きています。

しかしカブトムシには自分で木の幹に傷を付けて樹液を出すような、いわゆる「餌場」を作り出す能力はありません。

同じように樹液を餌とする、カミキリムシやボクトウガ等、他の昆虫が樹皮に付けた傷から出てくる樹液を吸っています。

 

カブトムシやクワガタ等、子どもに人気の生きものだけを人工的な飼育によって増やしても、それだけでは自然の豊かさを取り戻す行為にはつながっていきません。

 

森の中では、多くの生きものが繋がりあい、それぞれが生きていける環境ができています。

カブトムシが卵を産み、大きくなるまでに必要な腐葉土。

クワガタが卵を産み、大きくなるまでに必要な朽ちた木。

木や葉っぱが分解されるためには、多くの微生物の存在が必要不可欠です。

大きくなった後に食す樹液も、他の生きものがいなければ口にすることができないのです。

 

カブトムシとクワガタ、森の人気モノの生活史からも、森に暮らす生きものたちの大切なつながりが見えてきます。(終)

 

ページトップ