花野と森

森+LABO 2013.10.28

「萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 姫部志 また藤袴 朝貌の花」


秋の七草と言えば、山上憶良が万葉集の中で詠んだことで有名な植物。 

今回は、秋の七草にも詠まれた「尾花」こと「ススキ」の野原と森の関係についてLABOします。


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尾花(おばな)とはススキのこと。
秋の澄んだ青空にもよく映えます。


ススキは秋を代表する植物です。
風に穂がそよぐその姿には風情を感じますよね。

ススキ野原の名所としては、箱根の仙石原や奈良の曽爾高原が有名です。

しかし現在では観光資源として活用されるススキ野原も、人の手入れなしでは野原のままでいられません。

日本という国はまさに「森の国」で、人為的な影響がない限り、
気候的な理由で自然に森ができてしまいます。
もちろん例外となる場所もありますが、基本的には「森の国」なのです。


今、ススキ野原のように草原となっている場所の多くは、
かつて人が森を切り開き、
放牧地や屋根の材料を得るためのススキ野原としておくために、
定期的に手をかけて、その環境を維持していたところがほとんどです。

まるで昔から人が手を入れなかったからこそ残っていたような場所を
「定期的に手をかけて」というと、不思議に思われるかもしれません。

しかし定期的な野焼きを繰り返すことで、
はじめてススキ野原はススキ野原として留まることができるのです。

そのまま放っておくと、草原の中には木が生え始め、やがてススキ等の草本類は姿を消します。

こういった変化を、生物学では「遷移(せんい)」と言います。

私たちが郷愁や風情を感じる自然の風景の多くは、農耕文化に支えられた二次的な自然です。

しかし長い長い時間をかけて作られたその二次的な自然は、私たちの営みそのものと重なり、
ゆるぎない心の原風景ともなっています。 



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秋の野の花が咲き乱れる野原を「花野(はなの)」と言い、
花野を散策してその情景を歌にすることが古来より行われていました。

「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」 山上憶良

憶良の生きていた時代にはすでに放牧が始まっていたので、
そう考えると、この「花野」も、人の営みが生み出した美しい風景だったのかもしれません。




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