山の上に森はあるのか?
7月1日から多くの山では「山開き」となり、夏山の季節がやってきました。
高い山に登っていくとある時から森を構成していた高い木がなくなり、そのうち低い木もなくなり、山頂では石だけがごろごろしている、という景色に出会います。
山の上にはなぜ森がないのでしょうか?
今回はこの謎をLABOします。
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夏山でも頂上まで行くと涼しい空気が流れています。
垂直方向の気温差は水平方向の気温差よりも変化が大きく、例えば高度100mを上げただけで0.6度ほど下がっていくのに対し、
水平方向では-1度の気温差を体感するには緯度を100km北へ移動しなければなりません。
富士山の山頂は真夏でも平均4~6度なので、麓が30度だとしてもその気温差は20度以上あることになります。
もちろん山の上と下では気温差だけでなく、降る雪の多さや吹く風の強さが違います。
「日本の気候景観~風と樹 風と集落~(青山高義・小川肇・岡秀一・梅本亨 編/古今書院)」によると、
「(大雪山の)冬季の積雪深は、ほぼハイマツの高さに相当するため、ハイマツは冬季卓越風による種々のダメージから保護される。
しかし、ハイマツよりも背丈が高いトドマツやアカエゾマツの場合、雪面上に突出した幹の風上側(西側)では冬季卓越風の影響で
枝の成長が阻害され、積雪(着雪)により保護される風下側(東側)のみ枝が伸びる。」
山の上では高い木が生長することができない厳しい環境があり、高度が高くなるほど厳しいものとなります。
そうなると高木が森林としてまとまって生長することのできない限界が山の中に発生します。
この限界高度を「森林限界(しんりんげんかい)」または「高木限界(こうぼくげんかい)」と言います。
高木限界を過ぎると背の低い木しかなくなり、さらに高度を上げると低い木も成長できなくなり、
高山植物と呼ばれる背丈の低い植物だけになり、山頂には何も生えていない、岩だけがゴロゴロしている環境になっていきます。
山を登って行くうちに森の様子が変わっていくのは、高度によって厳しさを増す気候条件の違いによるものだったんですね。
夏の駒ケ岳・標高2,612mにある千畳敷カールの様子。山頂に向けて緑が少なくなっていく。
山の上で咲き乱れる高山植物。
夏しか咲くことができないのでほとんど全ての種類が大きく目立つ花をつけ、その様子は「お花畑」と称される。
こういった高山植物は氷河期に分布していた種の生き残りであることが多いため、比較的新しい山である富士山ではあまり見られない。
森林限界が起こる一番大きな理由は風雪なので、その境界となる高度は山がある緯度によって異なってきます。
例えば緯度の高い北海道では積雪が多く、富士山や中央アルプスでは2,500m付近が森林限界となるのに対して、
北海道の大雪山では1,500mあたりと言われています。
(同じ山でも北斜面と南斜面等、日照時間や積雪量が異なる環境ではその高さが異なります。)
高い木がなくなって、背の低い木しかなくなったら、それがその山の森林限界ラインと言えるでしょう。
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山の夏は短いのですが、冬には見られない生きものの息吹を感じることができます。
これから始まる夏休みを利用して、垂直方向の温度の変化を体感しつつ、短くも貴重な夏の山の景色を堪能してみてはいかがでしょうか?