秋津島の景色

森+LABO 2014.09.24

9月に入り、まだまだ暑さが残るものの、朝晩はすっかり秋です。

涼しくなった風に乗って、山から下りてくる生き物がいます。
赤トンボです。

今回は秋の風物詩ともいえる「赤トンボ」についてLABOします。

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日本の童謡でも親しまれている「赤トンボ」は、トンボ科アカネ属に属するトンボの総称です。
そんな中でも歌に歌われていたのは「アキアカネ」というトンボです。

アキアカネは平地の水田や沼、池などで孵化します。
孵化したてのアキアカネはまだ未熟ですが、その姿で小さな虫を食べて栄養を蓄え、
涼しい山を目指して長い距離を飛んでいき、そこで成熟していきます。
トンボは夏と秋で生息場所を移動する種が多いのですが、
アキアカネは特にこの移動距離が長いことで知られています。

アキアカネは涼しい環境下では体温が外気温よりも高くなるのですが、
たとえば30度以上の外気温にいると体の中から余分な熱を放出して、
適正な体温を維持することができないので、涼しい環境を求めて高度の高い山地を目指すと言われています。

そのため猛暑の時にはより高く、冷夏の時はそれほど標高が高くない地域で見られます。
生き物たちのこういった臨機応変さには驚かされます。

さてこのアキアカネですが、夏が終わると山を下りてきて、次の世代を残すために
平地の水田や沼、池などに卵を産みつける作業を行います。

卵のまま冬を越し、半年後にはヤゴに変態し、田植えが終わった田んぼで発生したミジンコなどを餌に成長します。
そして初夏の夜、草によじ登って新たな変態を行い、羽をもったトンボへと姿を変えます。


トンボの古名は「秋の虫」を意味する「秋津」。
日本はかつて「秋津島(あきつしま)」と呼ばれていたほど、古くから多くのトンボが飛んでいました。
それは転じてみれば、豊かな田園地帯が国土を覆うほど広がっていたからに違いありません。

ただ1990年代後半から使われるようになったイネの苗箱に使われる薬剤の影響を受け、
アキアカネの個体数は激減しています。
いくつかの都道府県ではレッドリストの指定を受けるほど状況は深刻です。


秋になると当たり前のように見られていた赤トンボが秋の野原や田んぼを飛び交う姿が、
歌の中にしか存在しない、ということが起こらないようしていきたいものです。

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