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森の草刈り~ 草刈りで「生物多様性保全」を ~

森の手入れ 2015.11. 9

夏は草刈りの季節

梅雨が終わり、植物の成長も一層速度を増し、人と草との戦いの日々がやってきます。
緑豊かな森が自慢の東山ですが、実はこの森は里山の森。
里山の森の環境をより良い状態にしておくには、「夏の草刈り」が欠かせないのを存知でしょうか?
今回は里山の森の手入れのひとつ「夏の草刈り」と、「生物多様性の保全」のつながりについてご紹介しましょう。

 

夏に草が繁茂する理由

暖かさを好む夏型の植物は、温度が上がり、水分が供給されると急速に大きく生育してきます。
例えば、竹、ササ類。タケノコが大きくなり、葉を広げて光合成を活発に行うようになります。
またススキ、タケニグサのように、草でも人の背丈を越える種類もたくさんあります。
乾いた場所にはチガヤ、湿った場所にはオギ、ヨシなどが大群落を造ることもあります。

森でも草地でも背の高い植物が繁茂してくると、背丈の小さな植物は、大きな植物に日を遮られ、光合成が十分に行われず、枯れてしまうもの多くあります。
クズのようにツル型の植物が、植物が込み合った環境下で一番強いのも、日光を求めて上へ上へ、自分以外の植物をつたって伸びていき、他の植物よりも多く日を受けることができるからです。

 

120718_007.jpg道路脇の空き地で繁茂するクズ

 

もちろん他の植物から奪われるのは光だけではありません。根元に密生して、養分を奪ったりします。
 

 

草丈の変化と再生

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■他の植物に覆われつつある苗木(堀之内寺沢里山公園)

 

さて、なぜ夏場の草刈りが有効なのかというと、実はちゃんとした理由があります。
草が刈られた後の植物には根株が残っていますが、葉の部分が刈り取られると、その後十分な光合成ができなくなります。
さらに多年生の植物の根に蓄えられていた養分は、大きく成長できるよう葉茎へ移動しているので、その分、根に蓄えていた養分が減少しています。この状態で草(葉茎)を刈りとることによって、植物のその後の生育を抑えることができます。

またこの時期の草刈りの影響は、多年生草本では翌年以降も生育に影響があります。ススキの調査例では、8月下旬の草刈りは、2年後の生育(生産量)にも大きな影響を与えているという例もあります。

このような草刈りは、初夏から初秋までに何回か行われます。草刈りを繰り返すことで、草地全体の草丈が低く抑えられるのです。

 

 
植物の背丈が低くなると

植物の背丈が低くなると、地表面近くまで光が届くようになり、小さな植物も生き残り、開花・結実することができます。
刈られて背丈が抑えられた植物も、秋に向けて開花・結実していきます。また、春先に開花する多くの草本植物は、秋に芽を出して、冬越しをします。
スミレ類、カキドオシ、ナズナ、コウゾリナ、キランソウなどは、冬の間にはほとんど地面に張り付いた状態なため、芽の位置(生長点)が低い植物です。

 

120718_001.jpg日の当たる場所にはアズマネザサが繁茂する(東山周辺の森)

 

樹木に覆われた森林内でも、手入れがされないと、ササ類が林床(森林内の地表面)に密生、繁茂して、植物種は少なくなります。
林床のササの刈り払いを行うことで、成長点が低い多くの植物種が生育できるようになります。


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■下草刈りをした林床(東山周辺の森)

希少種になっているキンランやギンラン、サイハイラン、エビネ、タマノカンアオイなども、こういった森の手入れを続けていくことで自然発生する可能性が高まります。
遠くの山や森の山野草の名所まで足を運ばなくても、近くの森の下草を適正に管理することで、より鑑賞的にも価値の高い、美しい森へと変わっていくのです。

草刈りによって管理された場所は、その環境の変化によって、より多くの種類の植物が生育できるようになり、生物の多様性も植物の多様性に合わせて高まっていきます。
かつての里山でよく見られた早春の山野草が咲き乱れる美しい光景は、こういった夏の下草刈りを定期的に行っていた証でもあるのです。

 

 

刈り取った草やササは

刈り取った草は、落葉などとともにまとめて、板囲いの中に入れて保管し、時間をかけて分解させれば、腐葉土となり、そこはカブトムシなどの発生地にもなります。

 

 

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■カブトムシの棲みかにもなる落葉溜め 。草刈りで出た草も、森の大切な資源になる。

 

分解に時間がかかる堅いササ類は、そのままでは後の草刈りや活動等の邪魔になるので、まとめて片付け、林内斜面等に積んでおくといいでしょう。この場所は多孔質空間となり、多くの昆虫、小動物等の生息場所として、生物の多様性を向上させることにもつながっていきます。

 

 

 

120718_004.jpg刈った竹やササなどは林内に整理して置いておくと、色んな生きものの棲みかにもなる。(堀之内寺沢里山公園)

 

このように草刈りをした後に、刈った草を「廃棄物」として処理せず、里山の恵みの一つとして循環させていくことで、森を始めとする里山の生態系の多様さをより増していくことができるのです。

夏の草刈りは確かに重労働(本当に!)ですが、美しい里山や森の風景を作るためにも欠かせない、大切な森の手入れなのです。

 

 




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